今回の奈良行きの一番の目的は、
東大寺・法華堂(三月堂)に安置されている執金剛神立像にお会いすることでした。
東大寺といえども、長い間にはご多分に漏れず焼失・再建を繰り返してきた歴史があります。
ところがそのなかでもこの法華堂は、奈良時代創建の正堂と鎌倉時代再興の礼堂を
融合させた美しい姿を私達に残してくれています。
更に天平彫刻の宝庫と呼ばれるように、堂内には数々の国宝が鎮座。
なかでも開扉が12月16日の一日のみとされている執金剛神立像の存在は
私にとっては憧れにも似た格別の存在。
1200年以上前に造られたとされるこの金剛神将像は、
法華堂本尊である不空羂索観音像の背面にある北向きの厨子に、
秘仏として安置されながらも
常に如来の傍らにあって守護の任に当たっています。
またその名は最強の武器である金剛杵を執ることからの命名。
怒号威嚇しつつ金剛杵の一撃を加えんとする激しい動きの一瞬は
上体の捻じりにあわせ密着した甲の質感までが巧みに描写されています。
忿怒を示す顔面、加え躍動する筋肉、隆起する血管など
どれをとっても巧みに描写され言葉もありません。
まさに天平の大傑作と言っても過言ではないような気がします。
私は当然のごとく一度はこの目で直に観てみたい~!
けれども年一度の開扉は何度も言うように12月16日のみ。
師走の16日は誰でも多忙ですよね~!
でも、どうしても拝観したい~!
しかも、一年後の私達の身体はどうなっているか分からない~!
そこで、遂に今回の奈良行きを急遽決定~!
行って来ましたよ。当日伊丹空港に降り立ち、リムジンバスで奈良入り。
そして、そのまま法華堂までまっしぐら~!
さすがにお堂には、この日の開扉にあわせて沢山の人が訪れていました。
人の流れに従い、普段は入れない須弥壇横通路を裏側に向かって一歩ずつ進んでいくと、
背後の厨子の扉が開いており緊張の一瞬です。
そこには紛れもなく眼を見開いて立っているあの執金剛神立像のお姿が~!
重ねた歴史の長さを物語るように剥落も進んでいますが、
それでも秘仏であったがために各所に当時の色彩を読み取ることが出来
その迫力は素晴らしいものでした。
こうして同じ場所で静かにときを刻んでいたのですね。
その折は不空羂索観音像・四天王・梵天・帝釈天など計10体の仏像は
正面からのみの拝観でした。
ところが今回は八角二重基壇の周りを廻ることが出来たので、
違った角度から仏像を眺めることが出来、更に堪能出来ました。
やはり思い切っての奈良行きは正解だったような気がしたものです。
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ところで、この執金剛神立像は、
最新の科学の力で当時の姿が想像出来るようになったのです。
それは東京芸大と東京理科大による「執金剛神立像3D及び彩色復元」研究の成果です。
最新の分析機器を用いて調査した結果、
退色して今は見えない部分にも鮮やかな色を復元という快挙を。
少々ケバイ感じがしない訳ではありませんが、
当時の極彩色の美しさはこのようなものだったのでしょうね。
それにしても当時としては貴重な顔料を用いての綿密な仏像造り。
いにしえの時代と言えども、
そこには現代を超える観察力と技術があったのでは~!
今は21世紀。今まで見えなかったものが、科学の力で少しずつ見えて来る。
こうした彩色の復元もさることながら、
お堂の構造材の一部も年輪年代法により伐採年が分かるようになりました。
悠久のときを超えて少しずつ見えてくる楽しみ。
歴史のロマンとは、このようなことなのでしょうか。